血管をコントロールするがんの新たな治療戦略とは〜高倉先生に聞く〜

血管をコントロールするがんの新たな治療戦略とは〜高倉先生に聞く〜
効果・効能


血管とがんとの関係とる新たながん治療法の可能性

誰もがなる危険性のあるゴースト血管の内容と、その対策法について「美容と健康の大敵“ゴースト血管」で紹介しましたが、今回は血管とがんとの関係、また、血管の機能に焦点を当てて開発されている新たながん治療法について、引き続き、高倉伸幸先生にお話をうかがいます。

高倉伸幸 大阪大学 微生物病研究所教授

医学博士。三重大学医学部卒業後、京都大学大学院医学研究科博士課程修了。2001年、金沢大学がん研究所教授に着任。2006年より現職。金沢大学がん進展制御研究所客員教授を兼任。2014年より2018年まで日本血管生物医学会の理事長を務める。専門は血管形成、幹細胞など、血管治療に対する薬剤開発や生活習慣病やがん治療に役に立つような研究に従事している。


がん内部の血管はボロボロ

ゴースト血管に代表される血管の機能低下が、がんの治療戦略にも関わっているということですが、どういうことなのでしょうか?

高倉先生 がんのなかの血管は老化した血管と状態が似ています。内皮細胞と壁細胞、それぞれがきれいな壁をつくることができず不安定な状態なのです。このような状態だと、ゴースト血管でも説明したように細胞同士の引き合う力が弱いので、水分が漏れ出して血管の周りが水浸しとなり、酸素が届けられなくなってしまいます

血管が正常な状態であれば、薬を飲めば目的地までしっかり届けることが可能です。例えるならば、砂漠のなかに水がしゅっと染み込むようなイメージです。しかし、がんの血管は至るところから水が漏れていて水浸しになっているような感じで、がん組織まで薬が到達しません。体内に入った抗がん剤が目的地にまで届いていかないわけですね。

血管を潰す“兵糧攻め”のがん治療

なるほど。だから、抗がん剤の開発はもちろんだけれど、その薬をきちんと目的の場所まで届けられるように、血管の状態えるということも考慮しないといけないのですね。

高倉先生 そうですね。以前は、がんのなかの血管をつぶして酸素栄養を送らないようにする、がんを孤立させて弱らせるという戦略で治療薬の開発が行われていました。いわゆる、“兵糧攻め”の考え方です。ただ、血管を潰すということは色々とハードルが高いということもわかっており、がんの血管を潰そうとすると、ターゲットであるがん以外の血管にまでダメージが出て、副作用も強くなってしまうことがわかってきたのです。

また、がん細胞は酸素が少なくても生きていける変化を遂げているため、低酸素の環境のほうが生き延びやすいという特性があることもわかってきました。そういうこともあり、最近では、だんだんと方針転換が図られ、血管正常化をさせるといった考え方での治療開発が行われるようになりつつあります

血管の正常化で抗がん剤を狙った場所に届ける新たな治療法とは?

それは具体的にどのような内容なのでしょうか?

高倉先生 がん細胞内のダメージを受けた毛細血管を修復して、きちんとターゲットまで抗がん剤を届けようという考え方です。そこで私たちの研究室では、血管修復に役立つ、体内で作られる物質を見つけだし、血管修復のメカニズムを明らかにするといった研究を行っています。

一方で、がんを攻撃するリンパ球をしっかりと届けられるようにするための薬も開発しています。

例えば、最近、新しく出てきた免疫チェックポイント阻害剤は、免疫の要であるリンパ球を活性化させる薬です。しかし、血管が弱っていると、リンパ球までその薬を届けることができません。確かに、使用する薬の量を増やせば、がんも弱っていくわけなのですが、自己免疫にも副作用が出て膵炎や肺炎などの副作用が起きてしまい負担が大きくなってしまいます。

そこで少量の薬であってもリンパ球がしっかりと入り、がん細胞を攻撃できるようにする薬の開発に着手しています。こちらは製薬メーカーとタッグを組んで、マウスを使った基礎研究まで現在進んでおり、数年内にヒトを対象とした臨床研究を始めたいと考えています。

臨床医時代の経験で研究の道に

これまでの仮説にとらわれず、新しい概念での研究開発に取り組まれているのですね。最後になりましたが、先生の研究活動の原点になっていることについてお聞かせいただけますか?

高倉先生 元々、医学部を卒業後は血液内科の臨床医をしていました。そこで患者さんに抗がん剤を使った治療をしていたのですが、思うような治療効果が得られなかったのがきっかけです。

でも、実際の患者さんには思うように効果が得られないのに、試験管内で培養したがん細胞に抗がん剤をふりかけると、がん細胞は全部死滅するんですよ。その差が何なのかと考えた時に、体内で効かないということは抗がん剤を届けるまでの環境、つまり、血管の状態になにか原因があるんだろいうということで、血液や血管をテーマとした研究をスタートさせました。

臨床医時代、患者さんに施した抗がん剤が効かなかったことの悔しさが、血液血管研究の道に入る原点のひとつになっています。

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著者名:高倉 伸幸
出版社:毎日新聞出版
定価:1,300円+税

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